これからお話しする出来事も、20年ほど前のことです。今だったら、問題になりかねないので、最初にお断りしておきますね。
 
 当時、私は中学校の剣道部の顧問をしていました。
 中体連や新人戦などが近くなってくると、土日は練習試合を行い、実践の経験を踏ませるようにしていました。
 その頃は、まだ、顧問の私がワゴン車で選手を乗せて、遠征に出かけている時代だったので、保護者に送迎をお願いすることは少なかったのですが、
その一方で「なかなか、子供の部活動に保護者が関心を持ってくれない」という問題点がありました。
 
 私は、できるだけ強い学校と練習試合を組むことに苦心していましたから、練習試合の様子は必ずビデオに残すようにしていました。
 負けた試合はもちろん、勝った試合でも、それぞれの選手の「良い点」や「欠点」は必ず、ビデオの中に見て取ることができるからです。
 特に、「欠点」が発見された場合は、どうやれば修正できるか、自宅に帰ってから何度も見直して考え、練習方法を見直します。

 そして、翌日には選手にそのビデオを見せながら、
 「ほら、ここだ!この時に手が止まっているから、先手を打たれてしまうんだよ。・・・」な~んていう指導を行ったうえで、練習に入っていました。
 選手は練習試合中は無我夢中になっていて、自分の動きを把握できていないことが多いので、客観的に自分を見ることができる「ビデオ」は、とても貴重なものだったと言えます。
 
 だからといって、ビデオを何回も見ていれば練習が滞るので、1回は全体に見せながら指導して、そのあとは、「選手が自宅で自分の試合の様子を研究できるように」ビデオテープを選手に持たせるようにしていました。一人1日ずつ、交代交代に持たせます。

 まあ、生徒の家でのことなので、きちんと見て熱心に研究したものもいれば、見もしないで次の日に持ってくる生徒もいたかもしれませんが、たいていの生徒は、自分の試合する様子など滅多に見ることはできませんから、一生懸命、ビデオを回していたように思います。
 このことは、もう一つ、「保護者に自分の子供の活躍する姿を見てもらう」という狙いもありました。
ビデオを見ているうちに、親の方が一生懸命になり、やがて練習試合を見学しに来てくれる親も出てくるようになったので、一定の効果はあったようです。

 と、ある練習試合のビデオを見ているとき、ちょっと思いついて、試合シーンが終わったあとに、
「メッセージ」を入れることを思いつきました。それが以下のようなもの。

 「このビデオを見た人は、30分以内に、素振りを100本してください・・・なお、このメッセージは他の部員には決して話してはいけません・・・」

 これが、ひそかに選手の間では受けました。
 ビデオを家で見てきた生徒は、職員室の私のところまで一度返しに来るようにしていたのですが、
「先生、ちゃんと俺、素振り100本しましたからね。」
「ご苦労!みんなには内緒だぞ!」
「もちろんです!」
そういって、ニコニコ帰っていきました。
 この方法は一回しか使えませんでしたけど、
今だったら、とてもできないんでしょうねぇ・・・。残念です。

 決して、真似はしないでくださいね。